生母による虐待、いじめ、未亡人、交通事故、リストラ、いろいろあって、今は主婦作家を目指す、アラフィーです。


by chiyoko1960

新人文学賞予選だけ通過作品 その3

   坂  道   第3話


 信子には、知的障害のある妹がいる。身の回りのことはできるが、言葉を解さない。
 信子にとっては特別ではない、幼いときから共に暮らしている家族である。親がどこにも預けずに家で育ててきたために、彼女は障害者の妹がいる生活を当たり前のこととして成長した。
 そのせいか、女子大に進学するために親元を離れて、東京の学生寮で暮らし始めると、自分の周囲に何不自由ない人間しかいないという環境に、物足りなさを感じはじめた。
 彼女は同じ学生寮の仲間である祥子を誘って、女子大に近い男女共学のマンモス大学にある、「社会福祉研究会」というサークルに入部した。彼女たちの大学で障害者と知り合えるサークルは、目の見えない人が対象の『盲福祉研究会』しかなかったからである。
 女子大の学生がボーイフレンドづくりが目当てで、男女共学のマンモス大学のサークルに入るというのは、彼女たちの周囲でもごく自然な現象であった。男子学生側も、女の園からやってくる女子大生は大歓迎である。
 もちろん信子は、心底から障害者との付き合いが入部の目的だったのだが、彼女が誘った祥子はボーイフレンド捜しが目的でサークル活動に参加した。そういう態度を不純だと責めるわけには行かない。信子自身、1人で知らない大学に乗り込むのが不安だったので、
「ああいうサークルに参加してる男子学生なら、きっとみんな優しくていい人たちばかりだよ」
 と、祥子を上手にそそのかしたという面が無きにしも非ず、だったのだから。信子同様、田舎から出てきて学生寮で暮らし、どこか心細い思いを抱えていた人のいい祥子は、いそいそと入部に同意した。
 当時、そのサークルで代表をしていたのが、三年生の田中範夫だった。
 新入生歓迎コンパの席で、範夫は三十名以上のメンバーを前にして、堂々と演説めいた挨拶をして拍手を浴びていた。
 銀縁眼鏡の知的な笑顔。
 日に焼けた健康そうな肌。
 いかにも優しげな細い下がり目。
「ちょっと、あの先輩、いいじゃない?」
 祥子はすっかり夢中になって、範夫に熱い視線を送っていた。
「でも、いるんじゃないの、ガールフレンドぐらい」
 信子が淡々と水を指すと、
「そうかなあ」
 といいつつも、祥子は範夫から目を離さない。すると、斜め向かいに座っていた男子学生が、釘を刺すように口を挟んだ。
「あいつ、ああ見えても結構過激な活動家なんだよ」
「え、活動家なんですか?」
 信子は、ヘルメットを被りゲバ棒をもって街の中を練り歩く、闘志の姿を想像した。
「機動隊を相手にやりあったりするんだから。あんまり、お近づきにならないほうがいいと思うよ」
                                      (つづく)

 
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by chiyoko1960 | 2009-10-14 12:26 | マイセルフ